はじめての人の解剖実験(魚類:ニジマス)

諸注意:関連サイトの補足はこのパネル下欄です)

<目 次>
 1. はじめに:メッセージ
 2. 実験魚に対する配慮
 3. 必要物品:主な道具
 4. 事前準備と注意
 5. 動物の体と解剖法の概要
 6. 解剖操作:手順と観察
  手順腹腔(フックウ)域の操作
  手順腹腔内構造の観察確認事項
  手順腹腔内器官の摘出と観察 
   <休憩と記録
  手順口腔/コウクウ・鰓腔/サイクウ
  手順心臓:囲心腔/イシンクウ
  手順頭蓋(トウガイ)部・眼球(ガンキュウ)部
     6.1:眼球部、6.2:脳出し6.3:加温熱固定法
  手順その他背骨(脊椎骨)腎臓
 7.ボタン (図/Fig )のリスト
 8.
用語(音読呪文)・・ボタン[Check]を押す(右パネル右下)

<1. はじめに:メッセージ>
 私たちは、何故「からだの成り立ち」を学ぶのでしょう。
 背骨のある動物を「脊椎動物/セキツイドウブツ」といいます。サカナもカエルもそうです。カメ、トリ、ブタ、サル、みんな同じ「背骨」のある動物です(ボタン1)。ですから、サカナもサルも同じグループの一員です。でも、あなたは、本当に、そう思えますか。サカナとサルを比べてみる(ボタン3)と、何が同じで、どう違うのか、よく考えると解らなくなりそうですね。
 今日はサケ科魚類のニジマス(rainbow trout/レインボウ トラウト:ボタン5)を材料に解剖実験を行います。「科学実験」として行います。実験とは「ともかく何かを確かめること」です。皆さんは何を知りたいですか・確かめたいですか(ボタン4)。
 もしかしたら、君はサカナではなく哺乳動物を使って確かめたいと思っているかもしれませんね。でも残念ながら、今日は魚類/ニジマスです。
 昔から研究者は、魚類のからだの成り立ちを調べながら、サルやヒトの身体のことを考えてきています。今日はその一部を紹介します。
 実際に解剖を行うと、考えても・イメージしてもハッキリしなかったことがいろいろ実感できるはずです。同時に新しい疑問がたくさん湧いてくるものです。その疑問や「困ったな」と思うことを大切にして下さい。すぐ答えは出ないかもしれませんが、きっと、その疑問や好奇心があなたのバックボーン(背骨)になるはずです。
 ・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・ ・・・・・・
 なお、解剖とは「やみくも」に切り刻むことではない。一応手順がある。それを説明するには、理解するには、記述解説文が必要である。実演操作を見て記憶に従って『サクサク』行なうのは適切ではない。サカナでもネズミの場合でも同じである。好ましい事ではない。面倒だけども、下記の記述解説文を読みながら、少しずつ確認しながら進めることが必要である。自分自身の「経験値」を大切にするために必要がある。

<2. 実験魚に対する配慮>
 昔から、動物実験を行うにあたっては、例えば「動物実験の自戒」として「誠心感謝の意を以て・・自ら戒むること肝要なり」(動物実験解剖の指針(1964)岡村周諦、風間書房)となっている。「感謝の自戒」である。

  1. つまり、実験魚を解剖に供した君には、今回の実験から「何を学び、何を考え、今後、どのように発展させたいか」を積極的に考えてほしい。すぐ答えを出すことではないが、自分の経験値を大切にするため、実験ノートに実験中の事や調べたこと考えた事などを丁寧にまとめるように心掛けてほしい(感謝の自戒)。
  2. もし、実験動物の解剖に「強い抵抗」を感じる人は、無理して解剖操作を行なわない方が良い。観察と記録を担当する、または実験の様子を観察する、などにより「自分の経験値」を高めることができれば、術者と同様の学習になる、はず。
  3. 加温熱固定法という本格的な方法もあるので、適時、試してみる。

<3. 必要物品:主な道具>
 専門的な解剖道具でなくてもよい。よく切れるハサミや日曜品などで代用する。
 1) 良く切れるハサミ 大,小(調理用、文具用ハサミ)、
 2) ピンセット、3) 箸(はし)、4) 柄の長いスプーン、
 5) 替え刃ナイフ(文具ナイフ)、6) スポイト、
 7) 先端の鋭い小型のハサミ(眼球摘出用)、 8) タオル、
 9) 紙タオル(沢山)、10) ポケットティシュ(3パック)、
 11) 70%エタノール、12) お酢(消臭用)、13) 新聞紙、
 15) 食器用洗剤(手洗い脱臭用)、
  必要に応じて:
 1)麻酔剤(フェノキシエタノール)又は「氷」、2)マスク、
 3)摘出臓器を収納する小皿(シャーレ)、
 4)解剖バット(食器用トレー)

<4. 事前準備と注意>
 はじめて行う「解剖実験」には、「失敗した、とか、成功した」ということはありません。各自が「実験の手引き」の手順(テジュン)に従い、丁寧に操作(ソウサ)を進め、いろいろな事を「実感する・疑問に思う」ことが大切です。

  1. 実験を行なう前には、「解剖しながら何を確かめたいか」ということで、自分の疑問などを「実験ノート」に箇条書きにしておきます。または、簡単な模式図(モシキズ)なども用意してから実験を始めましょう。又は「管状構造に基づく器官系」の概念図(ボタン2)を使用する。
  2. 解剖前や術中、気分がすぐれない時には必ず休憩すること。無理して実験を進めてはいけない。周りの人の状態にも配慮してあげること。
  3. 解剖中は不必要に声を出さない。テキストを参照しながら自分のペースで行う。あわてず騒がず行うことが肝要。途中で時間切れになっても困ることではない。同じ実験時間内に「何を学ぶか」である。時に、少しだけ勇気も必要。
  4. 下記の操作の所要時間は3時間程度と考える。「時間が短いから素早く操作を行なう」は良くない。全部の操作行程を行なうことが目的ではない。
    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
  5. 解剖を行なうサカナは、新鮮な個体を使用します。実験魚が生きている時には、麻酔剤 フェノキシエタノール(液状の試薬:2リッターの水に対して約2mlの試薬を加える:数分で鎮静する濃度)で実験魚を完全に過剰麻酔させます(10分くらい放置する)。取り上げても動かない事を確認の上で実験を開始する。
  6. 又は、クーラーボックスなのに多量の氷を含む氷水中に長時間放置します(過度の氷冷麻酔)。実験前には必ず動かなくなっていることを確認する。
  7. 魚体表面の水分や粘液などをタオル・紙タオルで拭き取る。必要に応じて70%エタノールを吹きかけ、粘液等を凝固させ拭き取る(必要に応じ、希釈した「お酢」を噴霧し臭気をおさえる)。
  8. 「臭い」に強い抵抗を感じる人は「マスク」などを用いる。解剖操作中は手指に粘液など生体由来物質が付着する。よって、身近なところに「手拭きタオル」を装着すること。
  9. 魚類の解剖では魚体を手指で保持する必要があるため、グローブ(手袋)を用いると粘液などのため手元が滑りやすくなり時に危険である。よって、用いない方が安全である。
  10. 魚体が粘液などのため滑りやすく、固定し難いやハサミの刃先が滑る時には、紙タオルなどを「滑り止め」として使用する。紙タオルなどでしっかり保持する。但し、刃先に手指が来ないように注意する。
  11. 手指に粘液が粘着した場合は、石鹸や水で洗い流す前に、紙タオル等で拭き取る、又は70%エタノールを噴霧し粘液凝集の前処理の後に取り除くのが理にかなっている(アルコールアレルギーの人は要注意、火気厳禁)。
  12. 実験魚が多量に出血したらポケットティッシュ大の紙タオルを出血部位へ軽く押しあて、拭き取る(事前に適切な大きさの止血用の紙タオル、又はポケットティッシュを用意しておく)。
  13. 出血等で諸臓器が不明瞭になったら水道水(本来は生理食塩水)で洗い流し、その後に操作を進める。
  14. 消化管の中は当然の事ですが臭いがします。消化管を切ると消化管の内容物が出てきます。紙タオルの上などに内容物を受け、捨てる。更に必要に応じて水洗してきれいにして実験を進めます。

<5. 動物の体と解剖法の概要>
 動物の体の中には「骨や筋肉や内臓」などいろいろなものが入っています(ボタン)。但し、でたらめに詰まっている訳ではありません。体の中には幾つかの空間、つまり、体腔(タイクウ)と呼ばれる内臓などが収まる「部屋」が用意されています(ボタン6,7)。
 サカナで云えば、胃や腸や肝臓などを納める腹腔(フククウ)、心臓が入っている小部屋、つまり囲心腔(イシンクウ)、鰓(エラ)が入っている口腔(コウクウ)/鰓腔(サイクウ)、そして脳が納める脳頭蓋腔(ノウトウガイクウ)です。ちなみに、「腔」の字は「コウ」「クウ」、どちらの読み方でも正しいです。
 ですから、解剖実験ではそれら体腔の中がきれいに露出するような操作に心掛けます。その上で体腔に収まっている臓器や器官やその「つながり」を丁寧に観察する事が主な目的になります。
 そのためには、はじめに、体腔の周囲を被う筋肉(体壁/タイヘキ:体表の下にある筋肉の層/体側筋)を切り開きます。つまり、体表面にハサミをあて皮膚や筋肉を切り開き、体腔の一部を露出させる作業操作が最初になります。
 はじめての人でも丁寧に同時に勇気を持って、体表から体壁にあたる筋肉を少しずつ切れば、自然に体の中の空間/体腔に到達します。心配はいりません。落ち着いて行ないましょう。
 
<6. 解剖の手順:概要(ボタン6.7,8.9,10)

  1. 時間があれば、はじめに、実験魚の外部形態を模式図として描く。部位名称も記入する(ボタン5)。または、「管状構造に基づく動物体制(概念図:ボタン)」を白地図として利用しながら解剖操作をすすめる。疑問や確認したい事をメモしておく。例えば陸上動物との違いなどに対する疑問などは大切にする(思いついたらその場でメモする、箇条書きにする)。
  2. 下記の手順は、(1)腹腔内の構造→()口腔・鰓腔内の構造→()囲心腔内の構造→(4)頭部の中枢神経系の構造→(5)その他(腎臓・椎骨摘出など)の構造、の順である(模式図を参照:ボタン7, 8, 9)。
  3. 解剖操作に必要な時間は約3時間程度と考える。途中で休憩を入れること。

手順1:腹腔(フックウ/フッコウ)ボタン11,12,13

    1. 体全体の状態を確認後、紙タオルなどで水分を拭き取る。
    2. ボタン11:図を参照し肛門(コウモン)を確認する。肛門の1cmくらい前(1)の皮膚(ヒフ)の粘液などを紙タオルなどできれいに拭き取る。
    3. :魚体を押さえながら、矢印(1)の皮膚/体表にハサミで「切れ込み」を作る(4.補足も参照)。更に筋肉の層を少しずつ切る。体腔(タイコウ)の近くまで達したらひとまず終了し、5.の操作に移る。直接、腹腔内部が開く/露出するまでハサミを入れようとすると、時には腸管を切ってしまうので、その前で体壁の切開を中止する。
    4. 補足:もし、ハサミが滑り切りにくい時には、先の鋭利な「柄付き針」を切開部位の真上から突き通し、「枝付き針」で切り込みを入れる部分を固定する(ハサミを押し当てても逃げないように工夫した後に切開する)。ゴム版(版画用)などを下に敷いて「柄付き針」を突き刺す。
    5. ボタン12:切り口の露出した内部にハサミの丸い刃先を押しあて、矢印(2)の方向の体壁を少し切り進む。同じ部位でこの操作を繰り返すと腹腔が自然に露出する。
    6. 腹腔内部が露出したら、丸刃先を差し込み、ハサミで体壁(タイヘキ)を軽く持ち上げるような感じで切り進む(腹部正中線の体壁を切る進む)。
    7. 体腔が広く露出してくるので、途中、切り離した体壁を左右に広げ、内部状態を確認す                    
      1. 胸鰭(キョウキ/ムナビレ)の付け根の真下付近の前(囲心腔/イシンクウ:心臓が収まっているところ)の前でハサミを止める。
    8. はじめての人は、この段階で、ひとまずメモや感想を簡単に記述しておく。一息する。
      ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
    9. ボタン13: (1)の部位から矢印線(3)に沿って、体壁(タイヘキ)を持ち上げ内部状態を観察しながら、また、次の事項に配慮しながら切る。注意事項:内臓を傷つけないように注意する(浮き袋にも注意する)。腹腔の背面/背骨の下側/浮き袋の背側には、赤黒く細長い腎臓(ジンゾウ)が張り付いているので、腎臓は切らないようにその下の体壁を切る。露出状態を確認しながら切り進む。薄い半透明の腹膜(フクマク)腸間膜(チョウカンマク)が内部を被っていることも意識する。
    10. ボタン14:上下で切り離した腹部左側の体壁を持ち上げ、鰓蓋(サイガイ/エラブタ)の後方(4)で切り取る。内臓(ナイゾウ)が観察しやすい状態にする。

手順2:腹腔内器官の観察: ボタン15,16などまた、[Check]ボタン

    1. 栄養状態が優れて良い個体では、内臓の周囲に乳白色の「脂肪/シボウ」の塊をみることができる。脂肪塊には血管や神経はあまり見られないが、腸間膜(チョウカンマク:透明な薄い膜)で囲まれていることを確認する。
    2. 脂肪塊をピンセットなどで摘み取る。つまみ上げれば簡単に取り除く事ができる。生殖巣(腺)/セイショクソウ(セン)と間違わない事。
    3. 胃や腸を少しずつ下方向に引きずり出し、 体腔(タイクウ)内部にある臓器をていねいに広げてみる。胆嚢/タンノウは肝臓の裏側にある。
    4. 残っている腸管膜(チョウカンマク)の様子も確認する。血管も可能な範囲で確認する。肝臓に血液を導く門脈/モンミャクは腸管に張り付き/沿って走っている。
    5. 浮き袋は半透明であり新鮮な個体であれば風船のように空気でふくれている。つぶさないように注意する。
    6. 腹腔の背面に細長く張り付く腎臓(ジンゾウ)の様態(形や部位など)も確認しておく。腎臓表面には腹膜が被っているので、そのまま取り除かず観察する。輸尿管(ユニョウカン)を確認する。腎臓の操作は後で行なう。

<腹腔内の確認事項>
図8などを参照しながらCheckボタンも)、下記のA〜Gの器官などについて、以下の事項を可能な範囲で確認する・記録する。

 (1)名称、 (2)形、 (3)部位・連絡/つながり、(4)色、(5)触感
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 A:食道(ショクドウ), 胃(イ), 幽門垂(ユウモンスイ)、腸(チョウ)
    肛門(コウモン)
 B:肝臓(カンゾウ)、胆嚢(タンノウ)、膵臓(スイゾウ)
 C:脾臓(ヒゾウ)、
 D:鰾(ヒョウ/浮き袋)、
 E:生殖腺(セイショクセン):精巣 or 卵巣
 F:腎臓(ジンゾウ)、輸尿管(ユニョウカン)、
 G:その他:血管/門脈、肝静脈、腸間膜、腹腔内壁

手順3:腹腔内器官の摘出と観察: ボタン15,16などまた、[Check]ボタン

    1. 内臓諸器官を充分に引き延ばした後、口側の食道の付け根を確認する。最前部の腹壁(フクヘキ)から食道を切り離す。この時、肝臓から出る肝静脈/カンジョウミャクも切る事が多いが、そうすると、多量に出血する。その時は、止血用の紙タオルを押しあてておく。アワテナイ。
    2. 消化管の最後部/肛門部を体/体壁から切り離す(可能なら肛門の周囲を体壁と一緒に切り取る:直腸/肛門の管腔をそのまま摘出する)。出血したら止血用紙を押し当てる。
    3. 出血などにより切り離した内臓諸臓器が「ごちゃごちゃ不明瞭」になってしまったら、水を張ったバットに入れ、ゆっくり水洗しながら広げてみる。
    4. 胃のおわり、腸のはじまりには短い「そうめん」のようなものが付属しているが、それが「幽門垂/ユウモンスイ」である。周りの腸間膜を丁寧に除くとバラバラになる。幽門垂の内部構造は腸と同じである。
    5. 肝臓/カンゾウ、胆嚢/タンノウ、脾臓/ヒゾウ、浮き袋/ヒョウ、生殖腺/セイショクセン、を切り離し、シャーレなどに入れて順次観察する。
    6. 浮き袋が萎んでしまったら、切り口を作り、スポイトで水道水を入れてみる。触ってみる。
    7. 食道の切り口から、スポイトなどで水道水を注入してみる。胃に餌がある場合にはスポイトで水を入れ替え、洗浄する。
    8. 胃の下部、つまり、腸のはじまりを指で摘み閉じると、水が胃にたまるので、胃の形にふくれることを確認する。弾力を確認する。
    9. それぞれの部位を切り取り、上記の確認項目を復習する。消化管内に餌の残りがある時には、臭いがするので、洗い流す。
    10. 更に、長い消化管を縦に切り進み、管の内面を露出させ、観察する。触診(シクシン:触って様子を知ること)してみる。記録する。
    11. 幽門垂がある部分の腸管内部には細かな穴が見えるはず。幽門垂の小さな開口部である。
    12. 肝臓などはナイフで切り断面を作り観察する。
    13. 腹腔内は終了。 ひとまず、整理整頓。観察が終了した臓器は生ゴミとして処理する。

ここで一休みボタン17>。
 腹腔部は終了。実験台の整理を行なう。
 リフレッシュしながら、実験ノートを確認する。

手順4:口腔/コウクウ・鰓腔/サイクウ、: ボタン18,

    1. ボタン18鰓蓋(エラブタ/サイガイ)を持ち上げ、鰓(エラ)を構成する鰓弓(サイキュウ)鰓弁(サイベン)の状態を確認した後、大ハサミで矢印(5)の方向の「鰓蓋」の基部から切り取る。鰓を露出させる。
    2. ボタン19:口から口腔左側に大型のハサミの片刃を差し込む。この時、鰓を傷つけないよう注意し、鰓蓋の付け根から外側へ出す。水平線に沿って口腔の側面壁を切る取る。
    3. 上顎(ジョウガク:上のあご)と下顎(カガク:下のあご)が分離するので、右側も同様に切り、口腔/鰓腔を完全に露出させる。
    4. 口の中や鰓の構造などを観察する。
    5. その上で「4対の鰓弓/サイキュウ」の上/下部の基部をハサミで切開し、できるだけ、鰓全体をそのままの形で摘出する。
    6. 鰓は4対の鰓弓で「カゴ状構造」を形成し、鰓弓には鰓弁がブラッシ状に付属している(くし状の鰓耙/サイハもある)。構造の概要を簡単にスケッチする(カゴ状構造が口の中にどのような繋がりで存在するのかを確かめる:重要)。

手順5:心臓:囲心腔/イシンクウ: ボタン20

    1. 心臓(心房/シンボウ、心室/シンシツ、動脈球/ドウミャクキュウ)は囲心腔(イシンクウ)に収まっている。
    2. そこで囲心腔と腹腔の壁をなす心隔壁/シンカクヘキ(図のA)の下側/腹側から、図の矢印(7)の方向へ少しずつ体壁(体表と筋肉層)を切る。
    3. 少しずつ切ると囲心腔の一部に穴ができる。心臓まで切開しないよう注意して行なう。時には、囲心腔の壁(内壁)に切れ目ができると心臓が少し飛び出してくることもあるので、注意して行なう。出血してもあわてない。紙タオルでふき取る。水洗する。
    4. 心臓の3つの部分(心房/心室/動脈球)が充分に露出したら、スパーテル(コサジ)などで持ち上げてみる。
    5. 背側に位置する心房は壊れやすいの注意。心室は筋肉質なので大丈夫。サカナには心室の前に白色の動脈球(拍動を調整する)がある。
    6. この3つの部分から成る心臓をその形のまま摘出し観察する:動脈球の前をハサミできる。心房の後方をピンセットでつまみ切る。更に心臓を縦切りにして内部も観察する。エタノール保存も可能。

手順6:頭蓋(トウガイ)部・眼球(ガンキュウ)ボタン21,22
 手順は、眼球部を行ない、その後、頭蓋腔の「脳だし」を行なう。 未固定状態(鮮魚状態)で頭蓋腔の中の脳を取り出す「脳出し」が難しいと感じたら、操作途中でも、頭部だけを「熱湯」に浸し(加温熱固定法)、脳/神経を固化固定した後に行なうと操作が容易になる。

  1. 頭部の切断分離:大型ハサミで、頭部を(8)線で切り落とし、頭部表面を水洗または紙タオルできれいにする。

眼球部の操作

    1. 体表面から眼球(ガンキュウ)を触診し、眼球部とその周囲、境界を識別する。
    2. 先端の鋭いハサミやナイフを用いて、体表眼球部の周囲(境界)に切れ込みを入れ、その後、眼球の周囲をハサミで切開し、眼球を露出させる。眼球下の口腔体表からハサミを入れても良い。
    3. 眼球外側には薄いピンク色(ほとんど乳白色)の「動眼筋/ドウガンキン」が付着しているので、それも切り離す。ピンセットを多用する。
    4. 深部にある視神経は動眼筋に酷似しているが、白色であり強靭な繊維束(太いひも)であるので、ピンセットなどで少し伸ばし比較すると容易に識別できる。
    5. 視神経も切断し眼球を摘出する。
    6. 先端の鋭利な小型ハサミで眼球表面の透明な角膜を円形に切り出す。確認する。
    7. 切り出し部から視神経方向に眼球壁をハサミで切り半球状態にする。眼球内の様子を確認する。小皿にドロドロしたガラス体のゲル状(液)を受ける。レンズがあるので、ピンセットなどで取り出す。摘出したレンズは印刷文字などの上で、そのレンズ効果を確認する。指で固さを確認する。
    8. 眼球内部の黒色の壁面(網膜:色素上皮層、視細胞、視神経細胞の層状壁)も観察する。
    9. 網膜をピンセットなどで丁寧にはがしてみる。生理食塩水の中で揺すり、きれいにした後、可能ならウェットマウントで顕微鏡観察する。

<鮮魚の脳出しと観察:ボタン22

    1. 頭部の表皮/筋肉などを可能な範囲で切取り、頭蓋骨をそれなりに露出させる。
    2. 図を参照し、水平方向にハサミを開いて突き刺し、頭蓋骨の上部に切れ目を入れる。その部分を持ち上げると、脳腔が開くので、ハサミやピンセットなどで、上部の頭蓋骨を切取る。
    3. 脳がある程度露出したら、脳の固さを確認する。かなり柔らかい時には70%エタノールを垂らす、又はエタノール綿を脳の上に置き、エタノールを垂らして固定する。
    4. 脳が完全に露出するように頭蓋骨を切取る。その上で、ピンセットや小さじ/スパーテルを用いて少しずつ丁寧に脳を取り出す。
    5. 脳と連結している視神経(白色?)を露出・確認する)
    6. 脳などを保存する時には70%エタノールを用いる。

脳出し:加温熱固定法

    1. 眼球部が終了した頭部を熱湯の中に5分程度浸す。
    2. 頭部の体表皮膚や筋をピンセットなどで除去し、頭蓋(神経頭蓋)の骨を充分に露出させる。
    3. 頭頂部の骨を図の矢印(9)の方向で切取る(少しずつ丁寧に行なう)。又は、ピンセットなどで骨をはがしながら切取る。脳を納め脳頭蓋腔が露出し、乳白色の脳が露出するはず。図(Fig22)を参照し露出した脳の様態を確認する。
    4. 脳が完全に露出するように頭蓋骨を切取る。その上で、ピンセットや小さじ/スパーテルを用いて脳を取り出す。
    5. 脳と連結している視神経(白色?)を露出・確認する)
    6. 脳などを保存する時には70%エタノールを用いる。

手順7:その他:腎臓/ジンゾウ、背骨/セボネ

<腎臓>

    1. 腎臓は腹腔の背部(背骨の直下)の前後に細長く張り付いている赤黒い臓器である。表面には腹膜/フクマクが被っている。確認する。腎臓も独立臓器として存在する事を確かめるため、摘出を試みる。
    2. 腎臓の左側の体壁(筋肉)をできるだけ腎臓寄りで切取り、操作がし易いようにする。
    3. 体の左側から腎臓を被う腹膜を丁寧にはがす。
    4. 頭部方向から、腎臓の左右端にメス/ナイフの刃を軽く差し込み、前後に少しずつ切る。これにより腎臓がその形のままに露出してくるはず。
    5. 繰り返し操作を進めれば完全に摘出することができる。うまく操作が進まない時には、腎臓を小さじで掻き取り、腎臓の背部を確認する。
    6. 腎臓の後端は腹腔より後部まで伸びていることを確認する。
    7. 腎臓の表面に少し乳白色の塊が見えるが、それは内分泌器官の「スタニウス小体」である。

<背骨>

    1. 背骨は「そろばん玉」のような脊椎骨/セキツイコツ(椎骨/ツイコツ)が連なったものであり、背側の空間には「脊髄/セキズイ」が通る。背骨の背側にある棘状/キョクジョウの骨は「神経棘/シンケイキョク」であり、アーチ状の神経弓門/シンケイキュウモンという脊髄が通る空間を作る。下側には血管が走る。その下が腎臓である。
    2. 腎臓を取り出した後の胴部を適当な長さで輪切りにする。背骨の断面を丁寧に観察し、神経弓門と脊髄を確認する。針金などを突き通してみる。
    3. 時間があれば、熱湯で煮るとサカナの骨は綺麗に取り出すことができる。脊髄もひも状に固化するので、簡単に抜き取る事ができる。
    4. 改めて、加熱固定した後に、全身の骨格標本を作るってみるのも良い勉強になる。

<7. ボタン (図/Fig )のリスト>
Fig1 いろいろな形の脊椎動物、 Fig2 脊椎動物の概念図、
Fig3 サカナとヒトはどう違う、 Fig4 解剖とは?・解剖では?、
Fig5 外部形態と名称、 Fig6 4つの体腔、 Fig7 4つの体腔と内部概要 Fig8. ニジマスの内部構造、 Fig9 解剖の手順:概要1、
Fig10 解剖の手順:概要2、 Fig11 手順1:体壁の切開、
Fig12 手順2:腹部正中体壁の切開、
Fig13 手順3:腹部体側体壁の切開、 Fig14 手順4:腹部体壁の除去、 Fig15. 手順5:腹腔内臓器の観察、 Fig16 体内構造の模式図2、
Fig17 休憩、 Fig18 手順6:鰓蓋の除去、
Fig19 手順7:口腔鰓腔の切開、 Fig20 手順8:胃心腔と心臓、
Fig21 手順9:頭部の切り離し、 Fig22 手順10:脳・眼球の摘出、 Fig23 Q:規則性は?、 Fig24 四肢動物との違い、 Fig25 腹面図の比較



以上:おわり

 
<ニジマスの解剖:はじめての解剖実験 >
ふぃg
上図の番号は
下図:の番号は

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